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「フィッシュ・オン」 開高健著
昭和49年発行。
今さらながら、どうしてもっと早く開高健を手にしなかったのかと悔やむ。
いや、開高健を読まなかったわけではなく、
「オーパ」やら何やらのいわゆるこの手の本を、という意味でだ。
存在を知らなかったわけではない。
ただただ「釣り」は“するもの”であって“読むもの”ではない、
という私の依怙地で勝手な思い込みが開高を手にすることを妨げていた。
ところが読み終えてどうだ?
告白しよう。
私はツンドラの荒野に突き刺さる雨に濡れそぼちながらも川の流れに目を凝らし、
白夜の河原でキングサーモンを待ち焦がれていたし、
或いは早朝の北欧の白い靄の沸き立つ川で時合の訪れるのを今や遅しと待っていた。
最初のページをめくった途端、既に私はそこにいた。
身を切る水の冷たさを指に感じ、
深く暗い森の深夜にふくろうの声を聞き、
折れんばかりに竿をしならせ力の限りに抵抗をみせる魚の生命を掌に感じた。
私は打ちひしがれ、焦らされ、うっとりとし、凍え、人恋しくて渇き、
不安に膝を抱え、解き放たれ、怒り、笑い、ことごとく翻弄されていた。
そして時々、私は文字どおり本の上に顔を伏せ、
思い切り本の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
何故かそうでもしなければこのやるせなさを鎮められないように思ったのだ。
この本は長い間、書店の倉庫の棚に眠っていたものか、
古い紙の匂いとも紙魚の匂いともつかない懐かしい匂いに包まれていて、
これが読みつつ浮かれ発熱し火照った私の心を鎮めたのかもしれない。
「部屋の中にいて地図や写真や本を眺めつつ戸外の川のことをあれこれと想像をして
時間をすごす人のことを“アームチェア・フィッシャーマンというらしい”
(「フィッシュ・オン」本文より)
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