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●「イカの卵巣」
「イカの話のついでに、他所では滅多に口に入らないものを御紹介しよう。
イカの卵巣をすり下ろして作る蒲鉾である。
中略
しかし、ただ絶品という以外、表現の仕様がないものである」
これを読んだ時、
私の心はぐわっしと鷲掴みにされてしまった。
食べ慣れた食材なのにこれがどう化けている?
どうにも気になって仕方がない。
これを食さずして「食の考察」などという大それた看板は上げられない。
これを知らずしてイカについて語るなどおこがましいにも程がある。
等々、冗談ではなくひたすら熱く思い込んでしまった。
ちなみにネタモトは以前紹介した、
「青魚下魚安魚賛歌」高橋治 著。 ↓をどうぞ。
http://duoneemu.blog.shinobi.jp/Entry/145/
前にも書いたが著者は限りなく独善的とも言いたい思い込みで断定する。
あるいは私自身がこれに釣られているのかもしれないが、
そこは「食の考察」。
あえて釣られてあげようではないか。
てか料理の準備っていうだけで太郎は釣られまくり・・・君のじゃないよ!
というわけで「イカの卵巣」の蒲鉾。
やはり「独善的とも言いたい思い込みで断定する」高橋氏らしさなのか、
私的には極々普通に醤油で炊いたほうが圧倒的に美味いと思う。
しかも調べてみるとここ山陰の東部には高橋氏の紹介した蒲鉾を、
さらに「醤油だれを塗って網焼きにする」という郷土料理があった。
これも作ってみたがこれまた蒲鉾より数倍美味い。
高橋氏、どうしたもんだろうか?
蒲鉾の作り方に決定的に欠けているものがあったのか?
高橋氏、連絡を待ちます。
それにしても「イカの子の炊いたん」、
これは素直に美味いと思ったよ。
●「イカの卵巣の蒲鉾」
◇話題性・・・★★★
◇ 味 ・・・★★
●「チヂミエゾボラ」【腹足綱前鰓亜綱真腹足目 エゾバイ科 エゾボラ属】
仕事から帰る途中、久しぶりに「かろいち」を覗いた。
(鳥取港海鮮市場「かろいち」についてはこちらをどうぞ→ http://www.karoichi.jp/ )
やはりシーズン終了間際、
最後の売り込みに各売り場とも「松葉ガニ」一色。
刺身、焼きガニ、茹でガニ、カニスキ、蒸しガニかぁ~~~、
旨そうなことこの上ないが今日の私の懐具合では・・・(涙)。
カニは目の毒「他に何か面白いものはないかな~」と見回すと、
あった!
売り場の後方に発泡スチロールのトロ箱に入った何やら旨そうな巻貝。
「赤バイ」と書かれているがこれは標準和名ではなくこの辺りの俗称だ。
殻が白っぽい「エッチュウバイ」を「シロバイ」と呼ぶのに対し、
茶色がかった殻の「チヂミエゾボラ」や「エゾボラモドキ」(他にもあるかもしれない)は、
一括して「赤バイ」で処理されセリにかけられる。
今回購入したのは丸みを帯びた殻の形から「チヂミエゾボラ」だろう。
食べ方は「ヒメエゾボラ」と同じように刺身、醤油漬け、焼きで。
蛇足だが、今回の「チヂミエゾボラ」は殻長15cm以上はある良形。
携帯TELを横に置いて大きさを推し量って頂こうかと考えたが、
また「おぢぃ.com」に ↓ のように言われそうなので止めた。
「大きさを比べるために、
いつも同じ携帯TELが置いてありますよね。
・・・
ムーバの・・・」
大きな殻だが薄いので木槌などで叩くと簡単に割れる。
取り出した身とワタを切り離し、
身は塩で揉んでヌメリを取り唾液腺を取り除く。
「ヒメエゾボラ」もそうだったがこの貝のワタは非常に旨い。
だから塩茹でにしてこれだけをしっかりと味わいたい。
焼きも刺身も非常に旨みが強く大満足の逸品なのだが、
身とは別に優しい旨みのワタを食べて「チヂミエゾボラ」は完結する。
正しく「一粒で二度美味しい!」なのだ。
●「ヒメエゾボラ」
◇話題性・・・★★★☆
◇ 味 ・・・★★★☆
※「唾液腺」には「テトラミン」という神経毒が含まれるので取り除くこと。
命にかかわることはないが、酒に酔ったような症状が出る。
こういう流れで来たならば、
次に何が来るのかはわかる人には至極簡単にわかるはずだ。
どう考えてももうこれ以外には有りえない。
あらためて言う必要もないかもしれないが・・・
今回取り上げるのは「ばちこ」(干しくちこ)。
写真と名前からこれが何かはだいたい想像できると思う。
そう、前回の「このこ」(生くちこ)を干したものだ。
「このこ」(生くちこ)からしてその希少性は充分承知だが、
「ばちこ」はその「このこ」を更に寒風で干すという手の掛けよう。
ちなみに「ばちこ」 という変わった名は、
干した形が三味線のバチの形に似ているからなのだそうだ。
一般的な食べ方は、さっと焙って細く裂いてちょっとづつ摘むらしい。
酒の用意も余念無く早速ストーブの上に乗せて焙る。
十秒ほどで取り上げマッチ棒ほどに裂いて行く。
正直、この度の「なまこ」3品の中で最も期待が大きい。
あれほどに深遠にして官能的な味わいの「このこ」が、
干すことによってどう化けるのか。
また王道を行く正統派の珍味の中でも相当に高く評価される「ばちこ」、
酒飲みならば私ならずともここで気合が満ちるのは自明の理だろう。
「あちちっ」と裂いて皿に乗せ、
一切れ口に放り込んだなら、
宙の一点をしっかと見据え、しかし全神経は舌に集中したまま噛み締める。
噛み締める。
噛み締める。
「ん?」
確かに旨いには旨い。
だけど・・・
「王道」って?
「正統派の珍味の中でも高い評価」って?
「気合が満ちるのは自明の理」って?
教訓。
期待し過ぎは怪我の元。
自分で無闇にハードルを上げてしまった(涙)。
●「ばちこ」(干しくちこ)
◇話題性・・・★★★☆
◇ 味 ・・・★★★
「このこ」(生くちこ)。
やはり次に続くのはこれしかないだろう。
前回の「食の考察」で取り上げた「このわた」が残念な結果だっただけに、
その関係から大きな不安が無くはないが反面期待も大きいのだ。
「このこ」とは「なまこ」の卵巣の塩漬けのことで、
その希少性と美食家の評価の高さに於いて「このわた」の比ではない。
あるサイトでは1トンの「なまこ」からわずか300gしかとれないという話も・・・
えっ!? ち、ちょっと大袈裟じゃないか(汗)。
美食家として名を通した北大路魯山人はあまりにも有名だが、
その魯山人が絶賛したのが能登半島は七尾と穴水の「このこ」(生くちこ)だ。
曰く。
「生の香りは、妙にフランス人の美人を連想するような、
一種肉感的なところがあって温かい香りが鼻をつく。
とにかく下戸も上戸も、その美味さには必ず驚歎する。
そうして初めて口に上す者は、そのなんであるかを当てる者は少ない」
と「魯山人味道」(北大路魯山人著)の中で絶賛してやまない。
こうまで言われると益々期待に胸が膨らむ。
フランス人の美人て、一体どんなの(^^;
皿に取ってみると確かに淡い色合いと香りは「このわた」とは別物。
味も・・・
こ、こ、これがフランスの美女の味!!!
教訓。
フランスの女子はそのまま向かうとややぼやけた感じだが、
何とこの女子、醤油がとてもよく合う。
驚いた。
キリッと引き締まってしかも官能的。
●「このこ」(生くちこ)
◇話題性・・・★★★★
◇ 味 ・・・★★★★
「世界の三大珍味」と言えば「キャビア」「トリュフ」「フォアグラ」だが、
我国にも「日本の三大珍味」というのがあるのをご存知だろうか?
一つはこの「食の考察」でも取り上げた「カラスミ」(ボラの卵巣の塩漬け)。
そして「ウニ」(塩うに)と「このわた」(なまこの腸の塩辛)、
この三品をして「日本の三大珍味」という。
・・・と、何だか大上段に振りかざした今回の「食の考察」。
いつもはどちらかと言えば奇をてらった変りモノに注目しがちだが、
やはり食の冒険者たるもの王道を行く正統派の珍味を避けて通る訳にはいかない。
というわけで今回は「日本の三大珍味」の一つ、「このわた」。
実は探してみると結構安いものがあったから・・・(^^; ソンダケェー!
上述の通り「なまこ」の腸の塩辛を「このわた」というのだが、
これが製品として出来上がるまでの工程を考えると気が遠くなりそうだ。
何しろ牛乳瓶1本(約180g)の「このわた」を作るには20kgの「なまこ」が必要で、
それらから取り出した腸を1本1本手作業できれいに洗うのだ。
海底の有機物を泥や砂と共に食べるなまこの腸にはしっかりと砂が詰っており、
1本1本指で丁寧にしごき出す他には有効な手段はなさそう。
爪を立てて乱暴に扱おうものなら途中でプツンと千切れてしまう。
これは「なまこ」を自分で獲る人ならば皆知っているだろう。
季節はちょうど今頃。
風のない凪の日に近場の小さな漁港の岸壁や船着場の海底等々、
丹念に探してみれば2匹や3匹の「なまこ」を獲ることができる。
これを持ち帰って自分で捌くのだが、
この時いつも腸の砂をしごき出して「ツルツル~~」と食べて・・・
・・・
あれれっ!
今回「食の考察」用にと取り寄せた「このわた」、
こんなものが「日本の三大珍味」として珍重されるのか?
海から持ち帰って自分で捌いた「なまこ」の腸はもっと香りが爽やかで、
冬の海に春の訪れを真っ先に感じさせてくれるものだ。
それに比べるとこれは・・・(悲)
教訓。
作り置きした大さじ一杯の「このわた」よりも、
耳掻き一杯に満たなくとも獲れたての方が価千金!
●「このわた」
◇話題性・・・★★☆
◇ 味 ・・・★★
●「アイゴ」 【 スズキ目アイゴ科アイゴ属】
「アイゴ」を好む地方では「非常に味が良い」と高い評価を得ているのに、
一方で釣り人には「痛い思いをさせられ強烈に臭い魚」というイメージが強い。
というのもヒレの棘には毒が仕込んであって、
ちょっとヒレに触れただけなのにズキズキ、ズキズキと丸一日ほど疼く。
臭いに関しても強烈なその磯臭さからだろう、
地方によっては「ネションベン」などと呼ばれるほどだ。
果たしてこれほど好き嫌いがはっきり分かれる魚が他にあるだろうか?
というわけでこれほどに評価の割れる魚、
先ずは食べてみることと相成って・・・
「旨い、これは旨い!」としきりに唸ったのは、
梁山泊のカニ鍋に参加してくれたモリロク。
その夜の他の参加者にもなかなか好評のようだ。
私も食べてその評価の高さに納得。
上品な味わいに磯臭さも香ばしい香りほどにしか気にならず、
身質もほっこりとして食べやすい。
ならば悪評の原因は何?
これは恐らく食べる時期を間違えたのだろうが、
夏場の磯臭いイメージに食わず嫌いを決め込んだ釣り人は損をしているなぁ。
余談だが沖縄の珍味「スクガラス」は「アイゴ」の稚魚の塩漬けのこと。
磯に付いて海草を食べると磯臭くなるので、
その前に捕獲して塩に漬け込むのだそうだ。
泡盛を飲みながら島豆腐と併せて食べると非常に美味しいという。
ところで水産庁の開催したシンポジウムにこういうのがあった。
『アイゴを食べて藻場を回復しよう』
沿岸海域に生息する海藻の多くが死滅し、
それに伴ってアワビなどの水棲生物が減少する現象を「磯焼け」というのだが、
近年この現象が各地に広がり漁業に大きな打撃を与えている。
そしてこの海草を死滅させているのは、
「アイゴ、ニザダイ、ブダイなどが海草を食い荒らすから」という説があるのだ。
つまり我々は「藻場回復プロジェクト」に一役買ったということになるのだ(笑)。
●「アイゴの干物」
◇話題性・・・★★★
◇ 味 ・・・★★★☆
●「鮟鱇」(アンコウ) 【 アンコウ目アンコウ科アンコウ属 】
※ 実は一般的に「アンコウ」として売られているのは「キアンコウ」という種類で、
「アンコウ」は数が少なくまた値も安いという。
というわけでこの度の「食の考察」は「アンコウの干物」。
「へぇ、これは珍しい!」とリアクションバイトしてしまったのだが、
結果は「・・・」ちょいと残念。
何故干したのか・・・その意味が私には見出せない。
見た目や食感は「サバフグの一夜干し」に似るが味は別物。
何しろ旨みに欠けるのだ。
「この地にしかない珍しい特産品を作ろう」ということなのだろうが、
その思いばかりが先行してしまったのかなというのが率直な感想。
やっぱり「アンコウ」はオーソドックスに鍋だなァ・・・
ところで「アンコウ鍋」でよく言われる「アンコウの七つ道具」とは、
柳肉(身肉、頬肉)、皮、水袋(胃)、キモ(肝臓)、ヌノ(卵巣)、えら、トモ(ヒレ)、
の七つの部位のこと。
「アンコウ」と言えば「アンキモ」が左党には垂涎の食材だが、
それ以外にも身肉より「七つ道具」の方が旨いとされる変わった魚だ。
まったくもってこれには納得。
ちなみにオスは食用になるほど大きく成長しないため食用にされるのはメス。
産卵期にメスの胃袋の中からオスのアンコウが出てくることがあるが、
これはカマキリと同じような習性によりメスがオスを食べるからなのだそうだ。
どこの世界でもオスは大変なんだよなぁ。
●「アンコウの干物」
◇話題性・・・★★★☆
◇ 味 ・・・★☆
粕漬け用にと買い求めた「シマメイカ」(スルメイカ)。
夜毎、雪降る大荒れの日本海に出漁するイカ釣り船がある。
あまりの冷たさに手足の指や耳は千切れるのではないかと思うほどに痛み、
その冷たさ痛さを誰かに聞いてもらうこともできない孤独な作業だ。
しかし、それほどに過酷な重労働なのにこのイカが1パイ158円。
大変な仕事だよな。
などと考えながら捌いて・・・
下足はお上さんに進呈することにして、
旨そうな卵が入っているがこれは後日使うので冷凍庫へ。
胴は刺身でも良いのだが今回は塩をして再度登場願うまで冷蔵庫で待機。
さて、となるとこの度のメインは・・・
普段ならば圧倒的に捨てられるケースが多いであろう「イカの肝」。
身と一緒に煮ても、焼いても、或いは肝だけを食べても、
実に旨い食材だと思うのだが何故か奥様方には人気がない。
手間要らずの優等生なんだがなあ・・・
丁寧に切り離して墨袋を破らないように外す。
後は醤油と清酒を適当に混ぜたタレに2~3日漬けて置くだけ。
適当な大きさに切り分けて清酒と一緒に頂くのが正式な作法だ(^^;
但し「酒は淡麗辛口に限る」なんて上品なことは云うべからず。
濃厚にして個性的な肝の味わいには、酒もゴツイ奴がおすすめ。
●「イカの肝の醤油漬け」
◇話題性・・・★☆
◇ 味 ・・・★★★☆
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